オフィスビル・テナントの空調とカビ|建築物環境衛生管理基準の湿度40〜70%をどう守るか

オフィスビルやテナント物件でのカビは、「なんとなく空気が重い」「奇妙なにおいがする」という声から始まることが多くあります。入居テナントからの問い合わせ、従業員からの不安の声、そして契約更新への影響——建物を管理する立場から見れば、カビは衛生の問題であり、同時に賃貸事業の問題でもあります。
この記事では、建築物衛生法に基づく管理基準を踏まえながら、北海道の気候条件の下でオフィスビルの湿度をどう管理すればよいのかを整理します。
1. まず知っておきたい基準値
建築物衛生法(建築物における衛生的環境の確保に関する法律)では、特定建築物について建築物環境衛生管理基準が定められています。湿度に関する部分は次のとおりです。
項目 | 基準 |
浮遊粉じんの量 | 0.15mg/m3以下 |
一酸化炭素の含有率 | 6ppm以下 |
二酸化炭素の含有率 | 1000ppm以下 |
温度 | 18℃以上28℃以下 |
相対湿度 | 40%以上70%以下 |
気流 | 0.5m/秒以下 |
このうち「相対湿度40%以上70%以下」が、カビの観点でもっとも重要な数値です。上限の70%を長時間超える環境では、埃や結露と重なったときにカビが発生しやすくなります。
下のグラフは、この目標帯と、道内の屋外湿度の関係を重ねたものです。

2. 北海道のオフィスで湿度が上がる場面
北海道は一年を通じて室内が乾燥しがちな地域と思われがちですが、実際には次の場面で局所的に湿度が上がります。
場面 | 起きていること | 影響を受ける場所 |
梱雨のない夏(6〜9月) | 外気の相対湿度が71〜75%と高い | 外気導入系統の下流、地下階 |
冷房運転中 | 冗長な冷やしで表面が露点以下に | 天井裏のダクト、吹出し口周辺 |
週末の空調停止 | 空気が動かず湿度が滞留 | 倉庫室、書庫、空きフロア |
融雪期(3〜4月) | 地盤の水分と排水不良 | 地下駐車場、機械室 |
冬の加湿過多 | 乾燥対策の加湿が過剰になる | 外壁面の壁、サッシ周辺 |
とくに見落とされやすいのが冬の加湿過多です。乾燥対策として加湿すること自体は適切ですが、外気温が低い北海道では、室内の水蒸気量が増えると冷たい外壁面やサッシで結露しやすくなります。湿度計を置き、40%を割らない範囲で抑えるのが実務的です。
3. カビが出やすい7か所
場所 | 理由 | 確認方法 |
空調の吹出し口周辺 | 冷風で天井面が露点以下になる | グリルの黒い筋を見る |
天井裏のダクト | 保温材の剥離・結露 | 点検口から目視と触診 |
窓際のペリメーター | 外気温と室温の境界 | カバーを外して内側を見る |
倉庫室・文書庫 | 空調対象外で空気が止まる | においと紙箱の状態 |
給湯室・湯沸かし室 | 水蒸気発生源に換気がない | 天井と壁の境界を見る |
地下階・機械室 | 地中温度と排水不良 | 床面の濡れと白い析出物 |
空きテナント区画 | 空調停止で長期間放置 | 入室時のにおいと壁面 |
空きテナント区画は、内見の直前になって初めてカビに気づくことがあります。空室期間中も月に一度は空調を回し、空気を動かすだけで、リスクは大きく下がります。
4. 空調方式ごとの留意点
方式 | 留意点 |
中央式(空調機・ダクト) | ドレンパンとフィルターの清掃頻度、保温材の剥離 |
ビルマルチ(天井埋込) | 内部の送風ファンとドレンの詰まり |
個別エアコン | テナント任せになりやすく、清掃履歴が残らない |
全熱交換器 | エレメントの汚れと目詰まり |
どの方式でも共通するのは、「水が通るところ」と「風が通るところ」の清掃が最優先だということです。ドレンパンに水が残り、フィルターに埃がたまれば、その二つが揃った時点でカビの条件は完成します。
5. テナントから申告があったときの初動
「カビ臭い」という申告は、対応の速さがその後の関係を大きく左右します。以下の順番で進めると、少ない手間で状況を把握できます。
順番 | やること | 目的 |
1 | 発生日時・場所・時間帯を聞き取る | 空調の運転状況との相関を見る |
2 | 当日の室温・湿度を記録する | 基準値との差を数値で残す |
3 | 吹出し口と天井面を写真撮影 | 後日の比較の基準をつくる |
4 | フィルターとドレンを確認 | もっとも頻度の高い原因を先に潰す |
5 | 他フロアでも同様の声がないか確認 | 局所問題か建物全体かを切り分ける |
この5ステップを踏んだ上でも原因が絞り込めない場合は、天井裏・ダクト内部など、開けないと見えない場所が残っていると考えられます。
6. 点検と記録の実務
頻度 | 内容 | 保存の仕方 |
毎日 | 共用部のにおいと水漏れの有無 | 巡回日報にチェック欄 |
週次 | 主要フロアの温度・湿度計測 | 表に記録し推移を見る |
月次 | フィルター・ドレンパンの目視 | 写真を日付付きで保存 |
四半期 | 天井裏・機械室・地下の点検 | 点検記録を保存 |
建築物衛生法の対象となる特定建築物では、空気環境の測定や記録の保存が求められます。この記録は行政対応のためだけでなく、テナントへの説明資料としても強い根拠になります。
7. 自社対応の限界を示すサイン
サイン | 示唆される状態 |
清掃後も短期間でにおいが戻る | ダクト内部など見えない範囲に発生源 |
複数のフロアで同時に発生 | 空調系統全体の問題 |
天井材やボードにシミがある | 結露水が下地まで及んでいる |
テナントから繰り返し申告がある | 対処が追いついていない |
衛生管理の記録で湿度超過が続く | 設備能力や運用の見直しが必要 |
8. 相談するかどうかの判断基準
判断軸 | 相談を検討する目安 |
範囲 | 共用部と専有部の両方に及んでいる |
再発 | 清掃後の再発が2回以上 |
説明 | テナントへの客観的な説明資料が必要 |
稼働 | 営業を止めずに進めたい |
オフィスビルでは、作業時間帯の制約が大きいのが常です。弊社では夜間・休日の施工や、フロア単位での分割施工もご相談いただけます。まずは現地を見た上で、どこから手をつけるべきかを整理するところからで構いません。
9. MIST工法®という選択肢
カビバスターズ北海道が採用するMIST工法®は、素材の状態に合わせて専用剤を調整し、強くこすり落とさずにカビを除去することを基本とした工法です。天井材や内装仕上げを削らずに処理できるため、原状回復の範囲を抑えられる場合があります。除去後は防カビ処理を行います。費用は面積・素材・作業環境によって変わるため、現地確認のうえでお見積りをご提示しています。
10. まとめ
建築物環境衛生管理基準の湿度は40%以上70%以下。上限を超える状態が続くとカビリスクが上がります。
北海道でも6〜9月の外気は71〜75%と高湿。「乾燥している地域」という前提は危険です。
吹出し口周辺、天井裏ダクト、空きテナント区画の3つが特に見落とされがちです。
測定と写真の記録は、テナント説明のもっとも強い材料になります。
建物の衛生状態は、テナントがこのビルを選び続けるかどうかに直結します。気になる声が上がった段階でご相談いただければ、できることの選択肢も広がります。
出典
厚生労働省「建築物環境衛生管理基準」(建築物衛生法に基づく特定建築物の基準)
気象庁「過去の気象データ検索 平年値(1991〜2020年)」札幌・釧路
【補足】よくいただくご質問
Q. 空調のクリーニングをすればにおいは消えますか
吹出し口や熱交換器に発生源がある場合は大きく改善します。一方で、ダクト内部や天井裏、内装下地に発生源がある場合は、機器の清掃だけでは届きません。清掃直後は改善しても数週間で戻る場合は、範囲を広げて探す必要があります。
Q. テナントの専有部はどちらの責任ですか
契約内容によりますので一概には言えません。ただし実務上は、発生原因が建物側の設備・構造にあるのか、使用方法にあるのかで切り分けるのが一般的です。この切り分けのためにも、共用部の測定記録を日ごろから残しておくことが役に立ちます。
Q. オゾンや薬剤を撮くだけではだめですか
一時的な減菌や脱臭の効果が期待できる場合はあります。ただし、カビが生えている基材そのものや、そこに水分が集まる条件は変わりません。発生源の除去と、水分の条件を変えることをセットで考えるのが基本です。
Q. 売却やリーシングを控えています。先にやるべきことは
内見の前に、空室区画の空調を回して空気を入れ替えることをおすすめします。においは内見の印象を大きく左右します。あわせて、天井・サッシ周辺の目視確認もしておくと安心です。
【補足】郡部の物件を管理されている方へ
道内は広く、管理物件が札幌外にあるケースも少なくありません。気象庁の平年値では、釧路の年平均相対湿度は77%、夏季は88%に達します。同じ仕様の建物でも、所在地によって湿気の負荷は大きく異なります。巫回の頻度を上げられない物件では、記録式の温湿度計を置いておくだけでも、次回の巫回時に状況を把握できます。
【補足】空調のスケジュールを見直すという手
オフィスビルの多くは、平日の執務時間に合わせて空調を運転し、週末は停止します。省エネの観点では合理的ですが、湿度の観点では週末の2日間、空気がまったく動かない時間が生まれることを意味します。
見直しの例 | ねらい |
週末に送風のみ短時間運転する | 局所の空気滞留を防ぐ |
連休前にドレンパンを確認する | 水を残したまま長期停止しない |
周回で倉庫室の扉を開ける | 空調対象外の区画に空気を入れる |
梅雨のない道内でも夏は除湿を意識する | 外気の高湿を持ち込まない |
いずれも大がかりな設備投資を伴わない見直しです。まずは運用でできることを試し、それでも改善しない場合に設備・工事を検討する——この順番が、結果的にコストを抑えます。
弊社へのご相談は、工事の依頼でなくても構いません。「この状態は手を入れるべきか、様子を見てよいか」を判断するための調査・見立てだけでもお受けしています。北海道内のオフィスビル・商業施設であれば、まずは現状をお聞かせください。
【補足】テナントへの報告に使える記載例
対応を行ったあと、テナントへどう伝えるかで受け取られ方は大きく変わります。次の4点を含めると、事実と対応が伝わりやすくなります。
項目 | 記載例の考え方 |
確認した事実 | 確認日、場所、測定した温度・湿度の実測値 |
推定される原因 | 断定せず、可能性として複数並記する |
実施した対応 | 清掃・除去の範囲と実施日 |
今後の予定 | 再確認の時期と、場合によっては工事の検討 |
とくに「断定せず、事実と推定を分けて書く」ことが大切です。原因が確定していない段階で断定的な表現を使うと、後から違う事実が分かったときに信用を損ねます。調査報告書を弊社が作成する場合も、この方針で作成しています。




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