神社・寺院のカビ対策|北海道の木造建築・文化財を札幌の気候から守る方法
更新日:1 日前
神社や寺院の建物は、木材、土壁、漆喰、和紙、畳など、湿気を吸ったり吐いたりする自然素材でできています。こうした素材は調湿性に優れる一方で、湿気を抱え込む量が限界を超えると、カビが根を張りやすい状態になります。さらに多くの社寺は森や木立に囲まれ、日が当たりにくく風が抜けにくい環境にあります。
北海道の社寺は、本州の古社寺に比べると歴史は新しいものの、明治以降に建てられた木造の本堂や社殿、開拓期の洋風建築など、地域の歴史を伝える建物が数多く残っています。札幌市内にも、旧札幌農学校演武場(時計台)や豊平館、八窓庵など、国の重要文化財に指定された建造物があります。
この記事では、神社・寺院の関係者の方や、歴史的な木造建築を管理する方に向けて、北海道の気候とカビの関係、カビが出やすい場所、日常の管理でできること、やってはいけないこと、専門家に相談する目安を整理します。
出典:札幌市「札幌市内の指定文化財(国・道・市)」
この記事の結論 神社・寺院や歴史的な木造建築は、立地、構造、素材の性質から湿気がたまりやすく、カビが出やすい建物です。北海道では、夏の湿った外気、冬の結露、春の雪解けと、季節ごとに注意すべき点が変わります。
社寺・木造建築にカビが生えやすい理由
社寺の建物にカビが出やすい理由は、大きく三つに分けられます。一つ目は立地です。山の斜面や樹木に囲まれた場所では、直射日光が遮られ、地面からの湿気が建物のまわりに滞留します。境内の木々が大きく育つほど、建物の北側や裏手は乾きにくくなります。
二つ目は構造です。防犯や保存のために閉め切られた宝物庫、床の高い本堂の床下、仏具や荷物で空気の流れがさえぎられた内陣の隅などは、湿気が逃げにくい場所になります。伝統的な建物は本来、風が通ることを前提につくられていますが、戸締まりの徹底や物の配置で、その通り道がふさがれていることがあります。
三つ目は素材の性質です。木材や土壁、和紙は湿気を吸いやすく、表面にほこりや汚れが付くとカビの栄養になります。いったんカビが発生すると、素材の内側に菌糸が入り込み、表面を拭いただけでは取り切れないことがあります。

北海道の気候と社寺のカビ
気象庁の平年値によると、札幌の月平均湿度は4月の61%がもっとも低く、7月と8月の75%がもっとも高くなります。6月から9月は70%を超え、夏の間は外気そのものが湿っています。この時期に堂内や収蔵庫の扉を閉め切ったままにすると、湿った空気が入れ替わらず、カビが育ちやすい条件がそろいます。

図:札幌の月別平均湿度(平年値)。札幌の外気の湿度は6〜9月に70%を超えます。冬も60%台後半ですが、暖房のない堂内や収蔵庫では壁際の温度が下がり、局所的に湿度が高くなりやすい点に注意が必要です。 出典:気象庁「過去の気象データ」札幌 平年値(1991〜2020年)
出典:気象庁「過去の気象データ」札幌 平年値(1991〜2020年)
一方、冬の札幌は1月の月平均気温が-3.2℃と冷え込み、雪が屋根や建物のまわりに積もります。暖房のない堂内では、壁や床が冷え切ったところに、人の出入りや行事で持ち込まれた湿気が触れて結露することがあります。行事の際にだけストーブで暖めると、室内の空気が一時的に多くの水分を含み、冷たい壁際や窓で結露しやすくなります。
春先の雪解け期も注意が必要です。建物のまわりに積もった雪が解けると、土台や床下の地面が長く湿った状態になります。軒下に雪が高く積もる建物では、外壁の下部が雪に埋もれて乾かず、木材の黒ずみや腐朽の原因になることもあります。
時期 | 札幌の気候 | 社寺で気をつけること |
春(3〜5月) | 雪解けで地面が湿る | 床下・土台まわりの湿気、雪解け水の浸入 |
夏(6〜8月) | 外気の湿度が70%を超える | 閉め切った収蔵庫・宝物庫の湿気、カビ臭 |
秋(9〜11月) | 雨が多く気温が下がる | 軒下や北面の外壁の乾きにくさ、落ち葉の堆積 |
冬(12〜2月) | 低温・積雪 | 行事時の暖房による結露、外壁下部の雪 |
カビが発生しやすい場所と見つけ方
社寺の建物でカビが出やすい場所は、ある程度決まっています。定期的に見回る場所を決め、チェック表を使って確認すると、小さな変化に気づきやすくなります。
場所 | 起こりやすい理由 | 確認のポイント |
床下・縁側の下 | 地面からの湿気が直接たまる | 土台や束の黒ずみ、土のようなにおい |
宝物庫・収蔵庫 | 気密性が高く空気が動かない | 扉を開けたときのにおい、棚の裏側 |
壁面・軒下 | 日が当たらず乾きにくい | 北面・裏手の木部の黒ずみ、しみ |
内陣の隅・畳の下 | 物が多く空気がよどむ | 重い仏具の下、畳の裏、敷物の下 |
収納スペース | 扉を閉め切る時間が長い | ベニヤの壁や床板の斑点 |
天井・梁の隙間 | 暖かく湿った空気が上にたまる | 格天井の入り組んだ部分、梁の上面 |
カビの見た目は白、黒、緑などさまざまで、木材の表面では汚れや経年の変色と見分けにくいことがあります。拭いても同じ場所に何度も出る、周辺にカビ臭がある、斑点が少しずつ広がっているといった場合は、カビを疑って記録を取りましょう。同じ位置から日付を入れて写真を撮っておくと、変化を比べられます。
天井や梁の上など、目で確認しにくい場所は、懐中電灯で斜めから光を当てると、表面のわずかな凹凸やカビの綿状の広がりが見えやすくなります。脚立に乗って高い場所を確認する際は、転落の危険があるため、必ず二人以上で作業してください。
日常管理でできることと、やってはいけないこと
社寺のカビ対策の基本は、湿気をためない環境づくりです。空気を動かし、物の置き方を工夫し、温度と湿度を記録することが、カビの予防につながります。
晴れて乾いた日に扉や窓を開け、堂内や収蔵庫の空気を入れ替える
仏具や荷物を壁にぴったり付けず、床や壁との間にすき間をつくる
床下の換気口の前に物や雪を置かず、通気を確保する
収蔵庫や宝物庫には温湿度計を置き、定期的に数値を記録する
境内の樹木が建物に覆いかぶさっている場合は、専門家と相談して枝の手入れを検討する
行事で暖房を使った後は、換気をして湿気を外に出す
文化財を展示する際の目安として、文化庁の「国宝・重要文化財の公開に関する取扱要項」では、展示ケース内の温度を22℃±1℃、相対湿度を55%±5%としています。これは公開時の展示環境の基準であり、堂内全体をこの数値に保つことを求めるものではありませんが、収蔵庫などの湿度管理を考えるうえで一つの参考になります。
出典:文化庁「国宝・重要文化財の公開に関する取扱要項」(平成8年文化庁長官裁定、平成30年改訂)
やってはいけないのは、自己判断で強い薬剤を使うことです。市販の塩素系漂白剤は、木材の変色や傷みを招くことがあります。仏像や絵画、装飾品のカビを落とそうとして、色落ちや剥離を起こしてしまうと、元に戻すことは困難です。ブラシで強くこすったり、紙やすりで削ったりするのも避けてください。市販品を使う場合でも製品表示を守り、塩素系と酸性の製品を混ぜることは危険なので避けましょう。
北海道の木造洋風建築・開拓期の建物の注意点
北海道には、社寺のほかにも、開拓期から明治・大正期に建てられた木造の洋風建築が多く残っています。札幌市内の国指定重要文化財(建造物)だけでも、旧札幌農学校演武場(時計台)、豊平館、八窓庵、北海道庁旧本庁舎、北海道大学農学部第二農場、北海道大学農学部植物園・博物館、旧開拓使工業局庁舎、旧札幌控訴院庁舎の8件が挙げられています。
出典:札幌市「札幌市内の指定文化財(国・道・市)」
こうした建物は、下見板張りの外壁、漆喰の内壁、木製の上げ下げ窓など、社寺とは違う素材と構造を持っています。木製の窓まわりは冬に結露が出やすく、窓台や窓枠の下部に水がたまってカビや黒ずみが出ることがあります。また、資料や展示品を保管する部屋では、社寺の収蔵庫と同じように空気が動きにくくなります。
地域の集会所や記念館として使われている古い木造建築、個人が所有する古民家や旧家の蔵なども、考え方は同じです。使う日が限られ、閉め切りの期間が長い建物ほど、湿気がたまりやすくなります。月に一度でも扉を開けて空気を入れ替え、においや床下の状態を確認する習慣をつけるだけでも、変化に早く気づけるようになります。
建物の種類 | 出やすい場所 | 管理のポイント |
社殿・本堂 | 床下、内陣の隅、天井・梁 | 通気の確保、仏具の配置の工夫 |
収蔵庫・宝物庫・蔵 | 棚の裏、床面、収蔵品 | 温湿度の記録、定期的な換気 |
木造洋風建築 | 木製窓まわり、壁の下部 | 結露の拭き取り、窓台の水の確認 |
集会所・古民家 | 押入れ、床下、北側の部屋 | 閉め切り期間をつくらない |
カビを放置するとどうなるか
木材にカビが出ている環境は、木材を腐らせる木材腐朽菌にとっても育ちやすい環境です。床下や土台、柱の根元が長く湿ったままだと、見えないところで腐朽が進み、建物の耐久性に影響するおそれがあります。カビが見えた段階は、湿気の問題を知らせるサインとして受け止めることが大切です。
仏像、天井画、襖絵、掛け軸、提灯などにカビが生えると、除去の過程で色や素材を傷めるリスクが高まります。カビが広がるほど、処置に時間と費用がかかるようになります。早い段階で気づき、専門家に相談することが、大切な寺宝や社宝を守ることにつながります。
また、堂内にカビ臭がこもると、参拝者や檀家・氏子の方々の印象にも関わります。行事の前に慌てて対処するのではなく、季節ごとの点検を習慣にしておくと、余裕を持って対策できます。体調面で気になる症状がある方は、医療機関に相談してください。
専門家に相談する目安とMIST工法®の実績
次のような状態が見られる場合は、自己判断での処置を控え、専門家に相談することをおすすめします。
建物内にカビ臭や土臭さがこもっている
木材に白・黒・緑などの斑点が出ている
清掃しても数か月以内にカビが繰り返し出る
壁や床が広い範囲で常に湿っていて乾かない
仏像や寺宝、天井画などに少しでもカビの兆候がある
カビバスターズ本部のサイトでは、MIST工法®による重要文化財の施工実績として、清水寺(京都市)のお堂、比叡山延暦寺(大津市)のお堂、永平寺(福井県吉田郡)の天井彫刻、中山寺(宝塚市)の天井画、浄智寺(鎌倉市)が紹介されています。比叡山延暦寺では、紙・竹・木材を組み合わせた大型提灯のカビ取りを行った事例も掲載されています。また、コンクリート構造の結露でカビが広がった納骨堂での施工事例も紹介されています。
出典:カビバスターズ本部(kabi-mist.com)トップページ「重要文化財の施工実績」、「寺院・神社のカビ取り」ページ
MIST工法®は、素材を削ったり強くこすったりせず、素材に合わせて調整した専用剤でカビを分解・除去し、仕上げに除菌を行う方法です。当社でも、木部の含水率測定や付着菌検査(有料オプション)で状態を確認したうえで、素材と環境に合わせた進め方をご提案しています。指定文化財の場合は、作業内容によって所管の教育委員会などとの協議が必要になることがあるため、所有者・管理者の方と手順を確認しながら進めます。
よくある質問
Q. 本堂の床下がカビ臭いのですが、換気扇を付ければ解決しますか。
A. 換気で改善することもありますが、地面からの湿気の量、雪解け水の流れ込み、床下の通気口の配置などによって効果は変わります。まずは床下の状態と木材の含水率を確認し、原因に合った対策を選ぶことをおすすめします。
Q. 仏像に白いカビのようなものが付いています。柔らかい布で拭いてもよいですか。
A. 仏像の表面には彩色や漆、金箔などが施されていることがあり、拭くことで傷めるおそれがあります。触らずに写真を撮り、専門家に相談してください。
Q. 冬の行事で堂内を暖房すると窓が結露します。どうすればよいですか。
A. 開放型の石油ストーブは燃焼で水蒸気を出すため、結露を増やす原因になります。行事の後は換気をして湿気を外に出し、結露した窓や窓枠は拭き取っておきましょう。結露が毎回同じ場所に出る場合は、その周辺のカビも確認してください。
Q. 収蔵庫に除湿機を置けば安心ですか。
A. 除湿機は有効な方法の一つですが、置き場所や運転時間、タンクの水の処理によって効果が変わります。急に乾燥させすぎると、木製品や紙資料が反ったり割れたりするおそれもあるため、温湿度計で変化を見ながら、ゆるやかに調整することが大切です。
まとめ
神社・寺院や歴史的な木造建築は、立地、構造、素材の性質から湿気がたまりやすく、カビが出やすい建物です。北海道では、夏の湿った外気、冬の結露、春の雪解けと、季節ごとに注意すべき点が変わります。
日常の管理では、空気を動かし、物の置き方を工夫し、温度と湿度を記録することが基本です。塩素系漂白剤などを自己判断で使ったり、強くこすったりすることは避けてください。寺宝や天井画にカビの兆候がある場合や、清掃しても繰り返す場合は、早めに専門家へ相談し、素材を傷めない方法で対処することが大切です。
カビのご相談はカビバスターズ北海道へ
カビバスターズ北海道では、含水率測定や付着菌検査・落下菌検査(有料オプション)などの調査から、MIST工法®による除去、カビが生えにくい環境づくりのご提案まで一貫して対応しています。札幌市内をはじめ北海道全域からのご相談を受け付けています。
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