火災後のカビ対策は乾燥が先|札幌で消火水に濡れた建物を原状回復する順番
更新日:20 時間前
火災が起きた建物では、焼けた部分や煤(すす)の汚れに目が向きがちです。しかし、原状回復の現場で後から問題になりやすいのが「消火に使われた水」です。放水や屋内消火栓、スプリンクラーの水は、床材の下、壁の中、天井裏、下の階へと広がり、見えないところに長く残ります。
濡れた木材や石膏ボード、断熱材は、乾くまでに時間がかかります。表面が乾いたように見えても内部に水分が残っていると、数週間後にカビ臭が出たり、クロスの裏に黒い斑点が広がったりします。とくに札幌では、秋から冬にかけて窓を開けにくく、暖房で室内だけ暖めると壁の中で結露が起きやすいため、乾燥の段取りを誤るとカビが出やすくなります。
この記事では、自宅や所有する建物が火災や消火活動で濡れてしまった場合、またはマンションで上の階からの消火水が流れてきた場合に、カビを防ぎながら原状回復を進める順番を整理します。消防・警察の調査、保険会社との手続きと並行して進める実務の目安としてお読みください。
この記事の結論 火災後の原状回復では、焼けた部分だけでなく、消火活動で使われた水がどこに残っているかを確認することが欠かせません。床下、壁の中、天井裏、階下の住戸まで水は広がり、乾燥が不十分なまま内装を戻すと、数週間後にカビやかび臭さとして表れます。
消火活動の水はどこに残るのか
総務省消防庁の消防白書によると、令和5年の建物火災2万974件のうち、放水を行ったのは1万23件で47.8%でした。つまり建物火災のおよそ半数では、消火のために建物内へ水が入っています。これに加えて、初期消火で使ったバケツの水や消火器の薬剤、スプリンクラーの散水もあります。
出典:総務省消防庁「令和6年版 消防白書」第1章第1節 火災種別ごとの状況(建物火災の放水状況、令和5年中)
水は重力で下へ流れ、材料の継ぎ目や配線・配管の貫通部から壁の中や床下へ入り込みます。フローリングの上に見える水をふき取っても、合板の下地や根太(床を支える角材)、床下の断熱材が水を吸っていることがよくあります。天井に放水された場合は、天井裏の断熱材がスポンジのように水を抱え込み、重みで天井材がたわむこともあります。
マンションや共同住宅では、火元の住戸だけでなく、真下の住戸や共用廊下、エレベーターホールまで水が回ることがあります。火が出ていない階下の住戸は「水損(すいそん)」、つまり水による損害だけを受けるため被害が軽く見られがちですが、天井裏や壁の中が濡れたまま放置されると、数週間後にカビとして表面化します。
場所 | 水が残りやすい部分 | 見落としやすいサイン |
床 | フローリング下の合板・根太・床下断熱材 | 歩くと沈む、継ぎ目の反り、床下のにおい |
壁 | 石膏ボードの下部、壁内の断熱材 | 巾木(はばき)付近の変色、クロスの浮き |
天井 | 天井裏の断熱材・野縁(のぶち) | しみの輪郭、たわみ、照明まわりの水跡 |
収納 | 押入れの床板・壁、奥の荷物 | 扉を閉めた後のこもったにおい |
階下住戸 | 天井裏・壁内・設備配管まわり | 上階の火災後しばらくして出る天井のしみ |
焼損よりも後から困る「水損」とカビ
火災の被害は大きく、燃えた・焦げた「焼損」、煙や煤で汚れた「煙損」、消火の水で濡れた「水損」に分けて考えると整理しやすくなります。焼損部分は解体・交換が前提になりますが、水損は「乾かせば使える」「表面を拭けば大丈夫」と判断されやすく、その判断が早すぎるとカビの原因になります。
カビは、水分・温度・栄養の3つがそろうと育ちます。火災後の室内には、濡れた木材や紙(石膏ボードの表面紙、クロスの裏紙)という栄養があり、室温も人が過ごせる程度に保たれています。残る条件は水分だけで、消火の水がその条件を満たしてしまいます。さらに煤や燃えかすが付いた表面は汚れが多く、水分を抱えやすくなります。
もう一つの問題は、煤のにおいとカビ臭が混ざってわかりにくくなることです。焦げたにおいが薄れてきたころに、カビ特有のかび臭さが目立つようになり、そこで初めて壁の中のカビに気づくケースもあります。においが変わったと感じたら、乾燥が足りていないサインとして受け止めてください。

原状回復の正しい順番|記録・排水・乾燥・カビ処理・内装
火災後の工事は、解体、清掃、消臭、カビ処理、内装、設備復旧と多くの工程が重なります。カビを防ぐうえで大切なのは、「乾燥を確認する前に、ふさがない」ことです。濡れた下地の上にクロスを貼ったり、床材を張り直したりすると、中に閉じ込められた水分でカビが育ちます。
記録:消防・警察の調査が終わり立ち入りが認められたら、濡れた範囲、天井のしみ、床の反り、家財の状態を日付入りで撮影します。保険会社や管理会社への説明にも使います。
排水と搬出:溜まった水を抜き、濡れた畳・カーペット・布団・段ボールなど吸水した物を室外へ出します。放置すると周囲の湿度を上げ続けます。
開口と乾燥:天井点検口や床下点検口を開け、必要に応じて濡れた断熱材や石膏ボードの下部を撤去し、送風・除湿で乾かします。
含水率で確認:木材や下地の水分量を測り、乾いたかどうかを数値で判断します。手で触った感覚だけで決めないことが大切です。
カビ処理:乾燥後に残ったカビを除去し、除菌を行います。濡れたまま薬剤を使っても、再び水分が供給されれば戻りやすくなります。
内装・設備の復旧:最後にクロス、床材、建具を戻します。電気設備は必ず電気工事の有資格者に点検を依頼します。
この順番のうち、工程が前後しやすいのが「含水率で確認」と「内装・設備の復旧」です。住まいを早く元に戻したいという気持ちから、見える部分の内装を先に仕上げてしまうと、乾燥不足の下地がそのまま閉じ込められます。工務店やリフォーム会社と打ち合わせる際は、「乾燥の確認をどの時点で、誰が、何で測るか」を工程表に入れてもらうと安心です。
札幌の秋冬は乾きにくい|季節ごとの乾燥の注意点
札幌の冬は外気が冷たく乾いているため、「冬は乾きやすい」と思われがちです。確かに外気に含まれる水分量は少ないのですが、濡れた建物を乾かすには、材料の中の水分を蒸発させる熱と、湿った空気を外へ出す換気の両方が必要です。窓を閉め切ったまま石油ストーブなどの開放型暖房をたくと、燃焼で水蒸気が出るうえ、室内の湿った空気が冷たい外壁側で結露し、かえって乾燥が進まないことがあります。
一方、秋の長雨の時期や雪解け期は外気の湿度が高く、窓を開けても乾きにくくなります。季節ごとに乾燥の方法を変えることが、札幌で火災後の水損を扱ううえでのポイントです。
時期 | 札幌の状況 | 乾燥で気をつけること |
9〜10月 | 気温が下がり雨も多い | 外気の湿度が高い日は窓を閉め除湿機を併用 |
11〜12月 | 初雪・根雪、暖房開始 | 開放型暖房で乾かさない、換気と除湿を組み合わせる |
1〜2月 | 低温で外壁側が冷える | 壁際・床下の結露に注意、暖房は電気式や送風を中心に |
3〜4月 | 雪解けで湿気が増える | 床下の湿気と雪解け水の浸入も同時に確認 |
5〜8月 | 気温が上がり乾燥は進む | 室温が高くカビが育ちやすいので早めに確認 |
濡れた住まいに住みながら乾燥を進める場合は、除湿機を濡れた部屋に置き、扉を閉めて集中的に運転し、たまった水を小まめに捨てるのが基本です。サーキュレーターで床面や壁際に風を当てると、表面の水分が飛びやすくなります。石油ファンヒーターや石油ストーブなど、室内に排気する暖房は乾燥目的には使わないほうが無難です。
札幌市の火災件数と、身近なリスクとしての水損
札幌市消防局の火災統計によると、市内の火災件数は令和2年の376件から、令和6年は420件、令和7年は421件となっています。令和7年の火災のうち建物火災は308件で、全体の73.2%を占めました。毎日どこかで火災が起きている計算になり、自宅が火元でなくても、隣家や上の階の火災で消火水の影響を受ける可能性があります。

図:札幌市の火災件数の推移(令和2〜7年)。札幌市内では毎年およそ380〜420件の火災が起きています。直近2年は400件を超えており、火災後の水損への備えは身近な問題です。 出典:札幌市消防局「令和6年火災統計」「令和7年火災統計」
出典:札幌市消防局「令和6年火災統計」「令和7年火災統計」
マンションの場合、上階の火災で自室の天井から水が落ちてきたら、まず管理会社や管理組合に連絡し、被害の範囲を一緒に確認してもらいます。天井のしみが小さくても、天井裏の断熱材が濡れていることがあります。自分では天井裏を確認できないため、点検口から水の広がりを見てもらうか、専門業者に調査を依頼すると安心です。
火元の住戸と階下の住戸では、原状回復の工程や時期がずれることもあります。階下側の乾燥が終わる前に上階の工事が進むと、階下の天井裏が閉じたまま冬を迎えることになりかねません。建物全体で工程を共有しておくことが、カビの二次被害を防ぐ近道です。
乾いたかどうかは含水率で判断する
「何日乾かせばよいか」は、濡れた量、材料、季節、換気の条件によって大きく変わるため、日数だけで決めることはできません。そこで使われるのが含水率(材料に含まれる水分の割合)の測定です。同じ部屋でも、濡れていない場所と濡れた場所を測り比べることで、どこがまだ乾いていないかがわかります。
当社では、火災や漏水の後の調査で含水率測定を行い、濡れた範囲と乾燥の進み具合を確認しています。見えない壁内や床下については、必要に応じてファイバースコープ(細いカメラ)で内部の状態を確認し、カビがすでに出ているかどうかを付着菌検査(有料オプション)で調べることもあります。数値と写真で残しておくと、工務店や保険会社との打ち合わせもスムーズです。
濡れた場所と濡れていない場所を同じ材料どうしで測り比べる
同じ場所を日を空けて何度か測り、下がり方を記録する
床は壁際と部屋の中央、壁は床から近い高さを重点的に測る
数値が下がり切るまで内装をふさがないよう工程を調整する
家財・衣類・書類の扱いとやってはいけないこと
消火の水に濡れた家財は、乾かして使える物と、処分を検討したほうがよい物に分けます。金属や陶器、ガラスなど水を吸わない物は、洗って乾かせば使えることが多い一方、布団やマットレス、畳、段ボール、ぬいぐるみなど内部まで水を吸った物は、乾燥に時間がかかりカビが残りやすくなります。処分する前に、保険の手続きのために写真を残しておきます。
書類や写真、アルバムは、大切な物から優先して取り出し、1枚ずつ広げて陰干しします。まとめて袋に入れたままにすると、数日でくっついてカビが出ることがあります。すぐに乾かせない量がある場合は、専門の修復業者への相談も検討してください。
やりがちなこと | 起こりやすい問題 | 代わりにすること |
表面を拭いてすぐクロスを貼る | 下地の水分が閉じ込められる | 含水率で乾燥を確認してから貼る |
開放型ストーブで部屋を暖めて乾かす | 水蒸気が増え壁際で結露する | 除湿機と送風、換気を組み合わせる |
塩素系と酸性の洗剤を併用する | 有毒なガスが出るおそれ | 製品表示に従い、1種類ずつ使う |
濡れた家財を部屋に置いたまま | 室内の湿度が下がらない | 写真を残し、室外へ出して乾燥・処分 |
市販のカビ取り剤を使う場合は、必ず製品の表示に従い、換気をしながら使ってください。塩素系の製品と酸性の製品を混ぜたり続けて使ったりすると危険です。また、火災後の建物では煤や焼けた材料の粉じんが残っていることがあるため、マスクや手袋を着け、無理に解体作業をしないようにしましょう。体調で気になる症状がある場合は、医療機関に相談してください。
よくある質問
Q. 火災から何日くらいでカビが出てきますか。
A. 濡れた量や室温、換気の条件で大きく変わるため、一概には言えません。数日で表面にカビが見えることもあれば、壁の中で進んで数週間後ににおいで気づくこともあります。日数で判断せず、含水率などで乾燥の状態を確認することをおすすめします。
Q. 上の階の火災で天井が濡れました。見た目は乾いていますが大丈夫ですか。
A. 天井材の表面が乾いても、天井裏の断熱材に水が残っていることがあります。まず管理会社に連絡し、点検口から天井裏の状態を確認してもらいましょう。しみの範囲が広い場合や、においが出てきた場合は調査を依頼すると安心です。
Q. 冬なので暖房を強めれば早く乾きますか。
A. 暖房だけでは、湿った空気が室内にとどまり、冷たい外壁側で結露することがあります。暖房で温度を上げる場合も、除湿機や換気で湿気を外へ出すことを組み合わせてください。室内に排気する石油暖房は乾燥目的には向きません。
Q. カビ処理はいつ頼めばよいですか。
A. 濡れた範囲の確認は早いほど良く、実際のカビ除去は、乾燥がある程度進んでから行うのが基本です。内装を戻す前の段階で相談いただくと、工程に組み込みやすくなります。
まとめ
火災後の原状回復では、焼けた部分だけでなく、消火活動で使われた水がどこに残っているかを確認することが欠かせません。床下、壁の中、天井裏、階下の住戸まで水は広がり、乾燥が不十分なまま内装を戻すと、数週間後にカビやかび臭さとして表れます。
順番は「記録、排水と搬出、開口と乾燥、含水率での確認、カビ処理、内装復旧」です。札幌の秋冬は窓を開けにくく、開放型暖房で乾かそうとすると結露を招くことがあるため、除湿と換気を組み合わせて計画的に進めましょう。乾いたかどうかの判断や、見えない部分の確認に迷ったときは、測定と調査で状態を把握してから次の工程に進むことをおすすめします。
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