本・書類・写真のカビを防ぐ家庭の保管術|札幌の気候と濡れた時の応急処置
更新日:1 日前
本棚から久しぶりに取り出した本の小口(ページの切り口)に茶色や黒の点々がある、段ボールにしまっていた書類がカビ臭い、押入れのアルバムの写真どうしが貼りついて表面に白いものが出ている。紙や写真のカビは、気づいた時には何冊、何枚にも広がっていることが多い持ち物です。
紙はセルロースという植物の繊維でできており、製本用の糊や写真の表面のゼラチン層、指の皮脂やほこりもカビの栄養になります。さらに紙は周りの湿気を吸ったり吐いたりする性質があるため、置き場所の湿度がそのまま紙の水分に表れます。
この記事では、図書館の資料保存で使われている考え方を家庭向けに置き換え、札幌の住まいでの本・書類・写真・アルバムの保管方法と、濡れた時やカビを見つけた時の応急処置を整理しました。大切な資料や思い出の写真を守るための、今日からできる手順を中心にまとめています。
この記事の結論 本・書類・写真のカビは、紙が周りの湿気をそのまま吸う性質から、置き場所の湿度で大きく左右されます。札幌では夏に部屋全体の湿度が上がり、冬は外壁側や北側の冷える場所で局所的に湿度が上がるため、季節によって注意する場所が変わります。資料保存では湿度65%を超えないこと、再発防止には60%未満が目安とされています。
紙と写真がカビやすい理由
カビは空気中にいつも漂っている胞子が、条件の合う場所に落ちて育つものです。紙の場合、その条件を決めるのはほとんどが湿度です。国立国会図書館の資料保存のページでは、湿度が65%を超える状態が続くとカビが発生する確率が高まるとしており、カビが出た資料のクリーニング手順でも、再発防止のために相対湿度を60%未満に保つことを挙げています。
出典:国立国会図書館「温湿度管理」、国立国会図書館資料保存課「カビが発生した資料をクリーニングする」
写真やアルバムは、紙よりもさらに注意が必要です。プリント写真の表面には画像を保持するゼラチンの層があり、湿気を吸うとやわらかくなって、重ねた写真どうしやアルバムのフィルムと貼りつきやすくなります。台紙の糊や、粘着式アルバムの接着面もカビの栄養源になり得ます。
もう一つの要因は、空気が動かないことです。本がぎっしり詰まった本棚、壁にぴったり付けた書棚、ふたを閉めた段ボール箱の中は、空気の入れ替わりが少なく、一度湿った紙がなかなか乾きません。表紙の背側はきれいでも、壁に面した小口や箱の底だけにカビが出るのはこのためです。
紙の種類によっても差があります。酸性紙と呼ばれる古い本や新聞は年月とともに紙そのものが弱くなりやすく、わら半紙のような目の粗い紙はほこりや汚れを抱え込みやすい素材です。反対に、コート紙のように表面を加工した紙は湿気を吸いにくい一方、一度濡れると乾きにくく貼りつきやすいという別の弱点があります。家の中の本や書類は、こうした性質の違う紙が混ざって同じ場所に置かれていることを意識しておくとよいでしょう。
札幌の気候で見る紙のカビリスク
気象庁の平年値で札幌の月別平均相対湿度を見ると、6月から9月にかけて70%を超え、7月と8月は75%になります。夏の北海道は涼しいイメージがありますが、湿度の面では紙にとって注意の必要な季節です。窓を開けて過ごす時間が長い家では、外の湿った空気が本棚の周りにも入ってきます。

図:札幌の月別平均相対湿度(平年値)。屋外の湿度は6〜9月に70%を超えます。冬は外気の数字が60%台でも、室内では暖房や生活の水蒸気、冷えた壁際で状況が変わるため、本棚の近くで実測することが大切です。 出典:気象庁「過去の気象データ検索」札幌 平年値(1991〜2020年)月別平均相対湿度
出典:気象庁「過去の気象データ検索」札幌 平年値(1991〜2020年)
一方で冬は外気の相対湿度が60%台で、暖房した室内はむしろ乾燥しがちです。それでも冬に紙のカビが出るのは、外壁に面した本棚の裏や、暖房の届かない北側の部屋、押入れの床付近が冷えて、局所的に湿度が上がるためです。部屋の中央で40%台でも、冷えた壁際では60%を超えることがあります。
つまり札幌では、夏は部屋全体の湿度、冬は冷える場所の湿度に目を向ける必要があります。季節ごとの注意点を下の表にまとめました。
温湿度計は、部屋の中央ではなく本棚の近く、できれば外壁側の棚の下段付近に置くと、紙が実際に置かれている環境に近い数字が得られます。数字が60%を超える日が続くようなら、除湿機を使う、本棚の位置を変える、部屋の暖房の当たり方を見直すといった対策を検討する目安になります。
時期 | 紙・写真にとっての注意点 | 家庭でできる対策 |
6〜9月 | 外気の湿度が高く、部屋全体の湿度が上がりやすい | 除湿機やエアコンの除湿を使い、窓を開けっぱなしにしない |
10〜11月 | 暖房を使い始め、日中と夜の温度差が大きくなる | 外壁側の本棚の裏をのぞき、結露やカビ臭を確認する |
12〜3月 | 外壁側や北側の部屋の壁が冷えて局所的に湿る | 本棚を壁から離し、北側の部屋にも弱い暖房を入れる |
4〜5月 | 雪解けで床下や外壁まわりが湿りやすい | 押入れや物置の段ボールを開けて中を点検する |
本・書類・写真の置き場所と保管のルール

家庭での保管は、図書館のように空調で温度と湿度を一定に保つことはできません。そのかわり、置き場所の選び方と並べ方で、湿気がたまる場所を避けることはできます。基本は、外壁と床から離し、詰め込みすぎず、ときどき空気を入れ替えることです。
本棚は外壁から5cm以上離し、背板と壁の間に空気の通り道をつくる
一段に本を詰め込まず、手が入る程度のゆとりを残す
床置きの本や段ボールは、すのこや台の上に載せる
北側の部屋や暖房の届かない部屋に大切な資料を置かない
本棚の近くに温湿度計を置き、冬の朝と夏の午後に数字を見る
長期保管の書類は段ボールより、ふた付きで通気口のある収納ケースや中性紙の箱を検討する
書類は、段ボール箱に入れて押入れや物置に積み上げると、下の箱ほど湿気を受けやすくなります。段ボールそのものも湿気を吸うため、底が湿ると中の書類まで湿ります。税務書類や契約書など長く保管が必要な書類は、湿気の少ない室内の収納に置き、年に一度はふたを開けて状態を確かめてください。
写真とアルバムは、光と湿気の両方を避けるのが基本です。窓際の本棚は日差しで色あせが進むうえ、冬は窓からの冷気で冷えやすい場所です。アルバムは縦に立てて、押し付けすぎない程度に並べると、ページの間に空気が残ります。古い粘着式のアルバムで写真がはがれにくくなっている場合は、無理にはがさず、そのままの状態で湿気の少ない場所に移す方が安全です。
濡れてしまった時の応急処置
雨漏りや水漏れ、窓の結露水で本や書類が濡れた時は、時間との勝負です。濡れた紙を重ねたまま放置すると、数日のうちにカビが出たり、ページどうしが貼りついたりします。国立国会図書館の資料保存課は、濡れた資料の乾燥手順を公開しています。家庭で行う場合の流れは次のとおりです。
濡れた本や書類を、濡れていない物から離す
タオルで押さえるようにして水分を吸い取る(こすらない)
濡れたページの間に吸水性のある紙(キッチンペーパーなど)を挟む
扇風機などで、本が倒れない程度の弱い風を当てる
挟んだ紙が湿ったら取り替え、半乾きになるまで繰り返す
最後に板などで挟み、軽い重しを載せて反りを抑えながら乾かす
出典:国立国会図書館資料保存課「水にぬれた資料を乾燥させる処置例」
写真集や雑誌に使われるつるつるした紙(コート紙)は、乾くとページどうしが貼りつきやすいため、濡れているうちにページを分けておくことが大切です。すぐに乾かす作業ができない場合は、濡れたまま袋に入れて冷凍し、時間を稼ぐ方法も紹介されています。量が多い時や貴重な資料の場合は、その間に専門家へ相談することができます。
ドライヤーの熱風やストーブの前での急な乾燥は、紙が波打ったり写真の表面が傷んだりする原因になります。時間はかかっても、風を当てて水分を逃がす方法を選んでください。
カビが出た本や写真の扱い方
カビが出た本を見つけたら、まず周りの本から離し、ビニール袋に入れるなどしてほかの資料に胞子が移らないようにします。濡れている場合は、先に乾かしてから作業します。湿ったままカビを払おうとすると、紙の繊維にこすりつけてしまうためです。
国立国会図書館の手順では、防塵マスクと使い捨て手袋を着け、換気がよく周りに人やほかの資料がない場所で作業すること、消毒用エタノール(濃度70〜80%程度)をペーパータオルに含ませて一方向に拭き取ること、その後に柔らかいブラシやHEPAフィルター付きの掃除機で汚れを取り除くことが示されています。表紙や印刷のインクが変色しないか、目立たない場所で試してから行うよう注意書きもあります。
出典:国立国会図書館資料保存課「カビが発生した資料をクリーニングする」
状態 | 家庭での対応の目安 | 専門家への相談を考える場合 |
小口や表紙に小さな点が数か所 | 乾いた状態で拭き取り、湿気の少ない場所へ移す | 拭いても広がる、においが残る |
ページの間にも広がっている | 袋に入れて隔離し、無理に開かない | 貴重書、古文書、家系の記録など |
写真どうしが貼りついている | 無理にはがさず、乾いた状態で保管 | 思い出の写真、ネガが無い写真 |
段ボールごと湿ってカビ臭い | 中身を出して乾かし、箱は処分する | 量が多い、部屋や押入れにもカビがある |
塩素系のカビ取り剤は、紙を傷めたり変色させたりするため、本や写真には使いません。また、塩素系の製品と酸性の製品を混ぜると有毒なガスが発生するので、ほかの掃除と同時に使わないよう注意してください。古文書や美術品のように価値の高い資料は、自分で処置する前に、資料保存を扱う専門家や地域の博物館・図書館に相談する方法もあります。
年に一度の点検と、残す物の整理
紙や写真のカビは、見ていない間に進みます。毎日手に取る本は変化に気づきやすい一方、押入れの段ボールや、何年も開いていないアルバムは、次に開けた時に初めて気づくことがほとんどです。そこで、年に一度、点検する日を決めておくことをおすすめします。札幌であれば、湿気の多い夏を越えて暖房を本格的に使い始める前の10月ごろは、夏の間の変化を確かめ、冬の置き場所を見直すのにちょうどよい時期です。
点検では、箱やアルバムを実際に開き、においを確かめ、数冊をめくって小口やページの間を見ます。箱の底や角が波打っていたり、変色していたりすれば、湿気を吸った跡です。問題がなくても、箱のふたを開けて半日ほど部屋の空気に触れさせると、中にこもった湿気を逃がせます。
あわせて、残す物の整理も進めると保管が楽になります。量が減れば詰め込みが解消され、空気の通り道ができます。代わりのきかない写真や書類は、スキャンして画像として残しておくと、万一カビや水濡れで傷んだ時の備えになります。原本は湿気の少ない室内の収納にまとめ、優先順位の高い物から守る考え方が現実的です。
10月ごろに年1回の点検日を決める
箱やアルバムは開いて、においと小口・底の状態を確かめる
問題がなくても、ふたを開けて中の空気を入れ替える
代わりのきかない写真や書類はスキャンして残す
原本は室内側の収納にまとめ、床置きをやめる
本棚の裏や押入れの壁にカビがある場合
本や書類のカビをきれいにしても、しばらくするとまた同じ場所の本にカビが出る場合は、置き場所そのものに原因があると考えられます。本棚を動かしてみたら壁紙が黒くなっていた、押入れの奥の壁や床板にシミがある、といったケースです。外壁の断熱が不十分な部分や、家具で空気が動かない壁では、冬に壁の表面や内側で結露が起こりやすくなります。
こうした時は、本を移したうえで、壁の状態を確かめることが先決です。当社では、壁や床の含水率測定や、表面の菌を調べる付着菌検査(有料オプション)で状況を確認し、原因の見当をつけてから対策をご提案しています。カビ除去が必要な場合は、素材を削ったり強くこすったりせず、素材に合わせて調整した専用剤でカビを分解・除去し、仕上げに除菌を行うMIST工法®で対応します。
よくある質問
Q. 本のページに出る茶色い点はカビですか。
A. 古い本に出る茶色の斑点は、カビのほかに、紙に含まれる成分の変化によるものもあると言われています。見た目だけで判断するのは難しいため、広がり方やにおいを観察し、貴重な本であれば専門家に相談してください。
Q. 除湿剤を本棚に置けば大丈夫ですか。
A. 除湿剤は狭い収納の中では一定の助けになりますが、部屋全体の湿度や冷えた壁際の湿気までは下げられません。温湿度計で数字を確かめながら、本棚の位置や部屋の除湿・暖房と組み合わせてください。
Q. カビの出た本を冷凍すればカビはなくなりますか。
A. 冷凍は、濡れた資料をすぐに乾かせない時に時間を稼ぐための方法として紹介されているもので、カビをなくすための方法ではありません。乾かした後のクリーニングは別に行う必要があります。
Q. 本のほこりを払うとくしゃみが出ます。
A. 作業の際はマスクと手袋を着け、換気のよい場所で行うのが基本です。体調面で気になる症状がある場合は、医療機関にご相談ください。
まとめ
本・書類・写真のカビは、紙が周りの湿気をそのまま吸う性質から、置き場所の湿度で大きく左右されます。札幌では夏に部屋全体の湿度が上がり、冬は外壁側や北側の冷える場所で局所的に湿度が上がるため、季節によって注意する場所が変わります。資料保存では湿度65%を超えないこと、再発防止には60%未満が目安とされています。
本棚は壁と床から離し、詰め込まず、温湿度計で数字を確かめること。濡れたらすぐに水分を吸い取り、乾かせない時は冷凍で時間を稼ぐこと。カビが出た時は隔離して乾かしてから、換気のよい場所で落ち着いて処置すること。そして同じ場所で繰り返す時は、置き場所の壁や床を点検することをおすすめします。
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