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札幌市の市有建築物約2,300施設と長寿命化|保全計画に「カビ点検」を組み込むべき理由

10月13日
読了時間: 26分

更新日:1 日前

こんにちは、カビバスターズ北海道です。2026年度(令和8年度)も後半に入り、札幌市内の公共施設では来年度の修繕計画や予算要求の準備が本格化している時期かと思います。当社には最近、市や区の施設担当の方、指定管理者の方、設備管理会社の方から「屋上防水の更新を控えた施設で、天井裏にカビが見つかった」「長寿命化の方針で使い続ける建物の内装に、しみとにおいが出てきた」といったご相談が増えています。札幌市の資料によると、市有建築物は約2,300施設・延べ約550万㎡にのぼり、1970〜80年代に建てられたものが多いとされています。建物を長く使うこと自体は、財政面でも環境面でも合理的な選択です。ただ、使う年数が延びるほど、漏水や結露、断熱材の劣化によるカビが、壊れてから直す「事後保全」の段階で見つかりやすくなるのも現場の実感です。カビは建物の性能そのものよりも、利用者の快適性や施設の信頼に直結しやすい劣化です。本記事では、保全計画にカビ点検を組み込むべき理由と、屋上防水・外壁・空調更新の周期とカビの関係、定期点検のデータを保全データベースに加える方法、利用者の属性や用途に応じた優先順位の付け方までを、施設管理の実務目線で整理します。

この記事の結論 札幌市の市有建築物は約2,300施設。長寿命化で使い続けるほど、漏水や結露によるカビは事後保全で見つかりがちです。屋上防水や空調更新の周期との関係、保全データベースへの点検項目の加え方、用途別の優先順位を解説します。

第1章|札幌市の市有建築物約2,300施設と「長寿命化」の現在地

札幌市の資料(ストックマネジメント)によると、札幌市の市有建築物は約2,300施設、延べ床面積は約550万㎡とされています。その多くが1970〜80年代に建設されており、築30年以上の建物の割合が高いことが示されています。札幌市ではこうした状況を踏まえ、2008年度から保全計画に基づく計画的な修繕を一元的に実施してきました。つまり札幌市は、建物を建て替えるよりも「適切に手を入れながら長く使う」方向へ、早い段階から舵を切ってきた自治体の一つといえます。2026年度の現在も、この保全計画の枠組みの中で、多くの施設が修繕を重ねながら使い続けられています。

学校施設に目を向けても状況は同じです。札幌市の学校施設維持更新基本計画によると、市内の学校は300校以上あり、その多くが1970〜80年代の建築で老朽化が進んでいるとされています。中央区や北区のような市街地の中心部はもちろん、東区・白石区・豊平区など人口の多い区でも、同じ年代に整備された学校や区の施設、市営住宅が数多く存在します。建物の築年数が一斉に進むということは、屋上防水や外壁、設備の更新時期も同じ時期に重なりやすいということです。

ここで押さえておきたいのが「事後保全」と「予防保全」の違いです。事後保全とは、雨漏りや故障など不具合が起きてから修繕する考え方のことです。予防保全とは、点検結果や劣化の予測にもとづいて、不具合が起きる前に計画的に手を入れる考え方を指します。長寿命化は予防保全を前提にした取り組みですが、現場では屋上防水や設備機器は予防保全の対象に入っていても、内装や天井裏のカビは「見つけたら対処する」事後保全のまま、という施設が少なくありません。

長寿命化計画では、一般に構造体の健全性を確認したうえで、屋上防水・外壁・設備などの部位ごとに更新の時期を定めていきます。一方で、天井材や壁紙、床材といった内装は「汚れたら張り替える」扱いになりやすく、その裏側で何が起きているかまでは記録されないことがほとんどです。カビは、この「部位と部位のあいだ」で起きる劣化です。屋上防水のわずかな不具合が天井裏の断熱材を湿らせ、その湿気が天井材の裏でカビを育て、最後に室内側のしみやにおいとして表に出てきます。部位ごとの更新計画だけを見ていると、こうした連鎖はどの項目にも当てはまらず、結果として事後保全で対応することになってしまうのです。

比較項目

事後保全でカビに対応する場合

予防保全にカビ点検を組み込む場合

カビが見つかるきっかけ

利用者からの苦情、におい、しみの発見

定期点検時の目視・含水率測定・菌検査

発見時の状態

天井材や壁の裏側まで広がっていることが多い

初期段階や、カビが出やすい条件の段階で把握しやすい

対応の進め方

緊急対応となり、部屋の使用停止が生じやすい

長期休業期間などに計画的に施工しやすい

予算の扱い

突発的な修繕費として計上

保全計画の中で年度ごとに見通しを立てやすい

記録の残り方

対応履歴が施設ごとに散らばりやすい

保全データベースに経年で蓄積できる

当社の現場での傾向であり統計ではありませんが、公共施設でカビのご相談をいただく場合、最初のきっかけが「利用者や保護者からの指摘」であるケースが目立ちます。つまり、施設側が把握するより先に、利用者が異変に気づいているということです。長寿命化によって建物を使う年数が延びれば、それだけ劣化の蓄積も進みます。建物の構造体を守る保全計画に、利用者の環境を守る視点としてカビ点検を加えることが、2026年度以降の施設管理で求められていると当社は考えています。

もう一つ見落とされがちなのが、施設の数が多いほど「どこで何が起きているか」を横断的に把握するのが難しくなる点です。約2,300施設という規模になると、個々の施設で見つかったカビの情報が担当課や指定管理者の手元にとどまり、市全体の傾向として共有されにくくなります。同じ年代・同じ仕様で建てられた施設であれば、ある施設で起きたカビは、別の施設でも起きている可能性があると考えておくのが実務的です。次章からは、なぜ長く使う建物ほどカビが事後的に見つかるのか、その仕組みを札幌の気候と合わせて見ていきます。

第2章|長く使う建物ほどカビが「事後」で見つかる理由|漏水・結露・断熱劣化

築年数の進んだ公共施設でカビが発生する原因は、大きく「漏水」「結露」「断熱劣化」の三つに整理できます。漏水は、屋上防水や外壁のひび割れ、サッシまわりのシーリング(すき間を埋めるゴム状の材料)の劣化などから雨水や融雪水が入り込む現象です。結露は、暖かく湿った空気が冷たい面に触れて水滴になる現象で、窓や外壁に面した壁、天井裏などで起きます。断熱劣化は、断熱材が湿気を吸ったりずれたりして本来の性能を発揮できなくなる状態で、これが結露をさらに起こしやすくします。三つは別々の現象に見えますが、実際の建物の中では互いに影響し合っています。

この三つに共通するのが「表から見えない場所で進む」という点です。漏水の水は天井裏の断熱材や下地材に吸い込まれ、しばらくは室内側に現れません。結露も、壁の内側や天井裏のように温度差が大きく人の目が届かない場所で起きる「内部結露」は、表面にしみが出るまで気づかれにくいものです。当社の現場でよく目にするのが、天井材に小さなしみが出た段階で点検口を開けると、裏側の断熱材や野縁(天井材を支える下地の木材や金属材)にすでに広くカビが広がっているケースです。長寿命化で使い続ける建物ほど、この「見えない期間」が長く積み重なります。

札幌の気候は、この仕組みをさらに強めます。気象庁の平年値(札幌管区気象台、1991〜2020年)では、札幌の初霜は10月25日、初雪は10月28日、根雪の始まりは12月6日です。北海道では暖房期間が概ね10月〜4月と長く、この間は室内と屋外の温度差が大きい状態が続きます。温度差が大きいほど、外気に近い壁や天井裏、窓まわりは冷やされ、室内の湿った空気が触れたときに結露しやすくなります。さらに豪雪期には窓を開けて換気することが難しくなり、利用者の多い施設ほど室内の湿気がこもりがちです。

劣化の要因

カビが出やすい場所

札幌の季節との関係

気づくきっかけ(事後保全の場合)

屋上・庇からの漏水

最上階の天井裏、断熱材、天井材の裏

融雪期や秋の長雨で水が入りやすい

天井のしみ、雨天時のにおい

外壁・サッシまわりの漏水

外壁側の壁の内側、窓下の腰壁

凍結と融解の繰り返しでひび割れが広がりやすい

壁紙の浮き、窓下の黒ずみ

表面結露

窓ガラス、サッシ、北側の外壁面

暖房期間(概ね10月〜4月)に続きやすい

カーテンや掲示物の裏のカビ

内部結露

壁の中、天井裏、屋根裏

室内外の温度差が大きい厳冬期に起きやすい

春先のにおい、内装の変色

断熱材の劣化・欠損

断熱材がずれた部分の天井・壁

冷える箇所が局所的に生まれる

特定の部屋の隅だけに出るカビ

公共施設特有の事情もあります。学校や区民センター、体育館などは、授業や行事、利用時間帯によって人の数が大きく変わります。多くの人が集まる時間帯には呼気や汗で水蒸気が増え、利用がない時間帯や長期休業中には暖房や換気が止まり、建物全体が冷やされます。この「湿気が増える時間」と「冷える時間」の繰り返しが、結露とカビにとって好ましい条件をつくります。特に冬休みや年末年始の閉館期間明けに、カビのご相談が寄せられることが当社では多いと感じています(当社の現場での傾向であり統計ではありません)。

また、同じ札幌市内でも、施設の立地や向き、周囲の建物や樹木による日当たりの違いによって、屋上の雪の残り方や外壁の乾きやすさは変わります。南区や手稲区のように山側に近い地域を含む区と、中央区の市街地では、同じ仕様の建物でも劣化の進み方が異なることがあります。カビは「建物の年齢」だけで決まるものではなく、「その建物がどの環境で、どう使われてきたか」の積み重ねで現れます。だからこそ、築年数による一律の判断ではなく、施設ごとの点検記録が意味を持つのです。なお、カビと健康への影響については個人差が大きく、利用者から体調に関する相談があった場合は、施設側で判断せず医療機関への相談を促すことが大切です。

こうした劣化は、年に一度の法定点検や設備点検の項目にはそのまま含まれていないことがほとんどです。屋上防水は防水の専門業者、空調は設備会社、内装は営繕担当と、部位ごとに担当が分かれているため、「屋上の不具合が天井裏のカビにつながっている」という因果関係を誰も把握していない、という状態も起こります。長く使う建物ほど、部位を横断してカビを見る仕組みが必要になるのはこのためです。

第3章|屋上防水の劣化・外壁・空調更新の周期とカビ発生の関係

保全計画では、屋上防水・外壁・空調設備といった部位ごとに、更新や改修の周期が設定されています。具体的な年数は、各部位の仕様や材料、自治体の計画によって異なるため本記事では触れませんが、カビの観点から見ると、周期の中に「カビが出やすい三つの局面」があることを知っておくと点検の計画が立てやすくなります。それは、更新周期の終盤、更新工事の最中、そして更新工事の直後です。

一つ目の更新周期の終盤は、もっともイメージしやすい局面です。屋上防水の劣化が進むと、防水層のふくれや継ぎ目のすき間、排水口(ルーフドレン)まわりの不具合から水が入り込みやすくなります。札幌では、屋上や庇に積もった雪が日中に解け、夜間に再び凍ることで排水が妨げられ、行き場を失った水が防水層のすき間から浸入する「すが漏れ」が起きることがあります。すが漏れとは、雪解け水がせき止められて逆流するように建物内へ入り込む現象のことです。この水は冬のあいだ天井裏にとどまり、春以降に気温が上がるとカビが一気に目立ち始める、という流れを当社の現場ではよく目にします。

二つ目の更新工事の最中も注意が必要です。屋上防水の改修や外壁の改修では、既存の防水層や仕上げ材を撤去する工程があり、天候によっては一時的に雨水が入りやすくなります。また、以前の漏水で湿ったままの断熱材や下地の上に新しい防水層をかぶせてしまうと、内側に水分が閉じ込められ、工事後に天井裏でカビが広がることがあります。改修工事の前に天井裏の含水状態を確認しておくことは、工事の品質を守る意味でも有効です。

三つ目の更新工事の直後は、見落とされやすい局面です。空調設備を新しくすると、冷房時に発生する結露水を排出するドレン配管が新たに設けられます。ドレン配管の勾配不良や詰まり、断熱の不足があると、天井裏で水漏れや結露が起き、カビの原因になります。札幌市の資料(市立学校・幼稚園の暑さ対策について、2026年7月17日更新)によると、札幌市立学校では令和9年(2027年)夏までに、幼稚園・小学校・中学校・中等教育学校・義務教育学校・高校・特別支援学校の普通教室等でエアコンの使用開始を目標としており、PFI方式による札幌市学校施設冷房設備整備事業として進められています。体育館についても令和15年度までに整備し、中学校を優先するとされています。多くの教室で新たに冷房が使われ始めるこれからの数年は、まさに「更新直後の局面」が一斉に訪れる時期といえます。

外壁についても触れておきます。札幌の冬は、外壁の小さなひび割れに入った水が凍って膨らみ、解けてまた入り込むことを繰り返します。これを凍害といい、寒冷地の建物でひび割れや表面の剥がれが広がりやすい原因の一つです。外壁から入った水は、室内側では窓下の腰壁や柱型の内側など、局所的な場所でカビとして現れることが多く、内装の張り替えだけで済ませると同じ場所に何度も再発します。また、窓の断熱改修や外断熱の改修で建物の気密性が高まると、それまですき間から逃げていた湿気が室内にとどまりやすくなり、結露の出る場所が変わることもあります。改修は建物の性能を高める一方で、湿気の流れを変える工事でもあると捉えておくことが大切です。

部位

カビが出やすい局面

起こりやすい現象

点検のおすすめタイミング

屋上防水

更新周期の終盤

すが漏れ、ドレンまわりからの浸水、天井裏の断熱材の湿潤

融雪後の春、改修設計の前

屋上防水

改修工事の最中・直後

湿った下地の封じ込め、施工中の雨水浸入

着工前の含水確認、竣工後の最初の冬明け

外壁・シーリング

更新周期の終盤

ひび割れからの浸水、窓下の壁内の湿潤

外壁調査と同時期

空調設備

新設・更新の直後

ドレン配管の水漏れ、配管まわりの結露

冷房を使い始めた最初の夏の終わり

換気設備

更新周期の終盤

換気量の不足による湿気のこもり

暖房期間に入る前の秋

このように整理すると、カビ点検は「独立した新しい点検」として増やすよりも、既にある部位の更新計画のタイミングに重ねて実施するほうが、予算面でも作業面でも効率的であることがわかります。屋上防水の改修設計を始める年度には最上階の天井裏を、空調更新の翌年度には機器まわりとドレン配管の経路を、というように、保全計画の工程表に「カビ点検の欄」を追加するイメージです。

第4章|施設管理のカビ点検を保全データベースに加える方法|目視・含水率・菌検査

カビ点検を保全計画に組み込むうえで大切なのは、点検の結果を「その場の判断」で終わらせず、保全データベースに経年で残すことです。保全データベースとは、施設ごとの建築年、部位の仕様、点検結果、修繕履歴などを一元的に管理する台帳やシステムのことを指します。札幌市のように保全計画に基づく修繕を一元的に進めている自治体であれば、既存の台帳にカビに関する項目を数列加えるだけでも、施設横断での比較ができるようになります。

点検の方法は、段階的に考えると無理なく導入できます。第一段階は目視点検です。天井や壁のしみ、変色、壁紙の浮き、においの有無を確認し、点検口がある場合は天井裏も懐中電灯で確認します。これは施設の職員や指定管理者、設備管理会社の日常点検の延長で実施できます。第二段階は含水率測定です。含水率とは、建材がどれだけ水分を含んでいるかを示す値のことで、専用の測定器を建材に当てて測ります。見た目に異常がなくても、内部が湿っているかどうかを数値で把握できるのが特長です。第三段階が菌検査(有料オプション)で、表面のカビを採取して調べる付着菌検査や、空気中のカビを調べる落下菌検査・浮遊菌検査などがあります。

すべての施設で第三段階まで毎年実施する必要はありません。目視点検で異常があった箇所、第3章で整理した「カビが出やすい局面」にある部位、利用者の属性から優先度が高い施設(第5章で解説します)について、含水率測定や菌検査へ進むという絞り込みが現実的です。当社では、初回に施設全体の調査を行って基準となるデータを取り、2回目以降は同じ位置で同じ方法の測定を繰り返すことをおすすめしています。測定位置が毎回変わると、数値の変化が劣化によるものか、場所の違いによるものか判断できなくなるためです。

点検の時期は、札幌の季節に合わせて年に二回を基本に考えると整理しやすくなります。一回目は融雪が進んだ春で、冬のあいだのすが漏れや内部結露の影響が天井裏や壁の内側に残っていないかを確認します。二回目は暖房期間に入る前の秋です。気象庁の平年値で札幌の初霜が10月25日、初雪が10月28日であることを踏まえると、9月から10月上旬までに換気設備の状態や窓まわりの劣化を確認しておくと、冬に向けた手当てが間に合いやすくなります。春の結果と秋の結果を並べて見ることで、その施設で湿気がたまりやすい季節と場所が少しずつ明らかになっていきます。

データベースに加える項目

記録する内容の例

活用のしかた

点検日・点検者

実施日、実施した担当者や事業者名

季節による違いの比較、責任の所在の明確化

点検位置

階・室名・部位(天井裏、窓下の壁など)、図面上の位置番号

毎回同じ位置で測定し、経年変化を追う

目視の結果

しみ・変色・におい・カビの有無、写真番号

異常の早期発見、詳細調査の要否判断

含水率

測定値、使用した測定器の種類、建材の種類

内部の湿潤の有無を数値で把握し、前回と比較

菌検査の結果

検査の種類、結果の区分、検査機関の報告書番号

カビの広がりや空気環境の把握

関連する部位の状態

屋上防水・外壁・空調の更新年度や直近の不具合

カビと部位劣化の因果関係の推定

対応履歴

清掃、除カビ施工、修繕の内容と実施日

再発の有無の確認、次の保全計画への反映

記録の中でも特に効果が大きいのが、「関連する部位の状態」の欄です。カビの発生位置と、屋上防水や空調の更新年度、過去の漏水履歴を同じ台帳の上で並べて見られるようにしておくと、「最上階の天井裏のカビは、屋上防水の更新周期の終盤にある施設に集中している」といった傾向が見えてきます。こうした傾向がわかれば、翌年度の点検対象や修繕の優先順位を、根拠をもって決めることができます。

写真の撮り方にも工夫が必要です。同じ位置・同じ向きで撮影し、ファイル名に施設コードと点検位置番号を入れておくと、担当者が異動しても記録を引き継ぎやすくなります。公共施設では担当者の異動が定期的にあるため、個人の記憶に頼らない記録の形をつくっておくことが、長寿命化を支える実務の基盤になります。なお、菌検査の結果は検査方法によって意味合いが異なり、結果だけで健康への影響を判断できるものではありません。検査の目的と方法をあらかじめ決めたうえで、同じ条件で比較することが大切です。

第5章|カビ点検の優先順位の付け方|利用者の属性・用途別に考える

約2,300施設という規模では、すべての施設に同じ頻度・同じ深さでカビ点検を行うことは現実的ではありません。限られた予算と人員の中で成果を上げるには、優先順位の付け方をあらかじめ決めておくことが欠かせません。当社がおすすめしているのは、「利用者の属性」「建物の劣化状況」「用途上の重要性」の三つの軸で施設を見ていく方法です。

一つ目の軸である利用者の属性では、子ども、高齢者、体調に配慮が必要な方など、環境の影響を受けやすい方が長い時間を過ごす施設ほど優先度を高くします。学校、幼稚園、保育施設、福祉施設、市営住宅などが該当します。札幌市の学校施設維持更新基本計画によると、市内の学校は300校以上あり、その多くが1970〜80年代の建築です。学校は利用者数が多く、滞在時間も長いため、カビが見つかったときの影響範囲が大きい施設といえます。

二つ目の軸は建物の劣化状況です。第3章で整理した「屋上防水の更新周期の終盤」「改修工事の直後」「空調の新設直後」にある施設や、過去に漏水の履歴がある施設は優先度を上げます。三つ目の軸は用途上の重要性で、災害時に使われる施設や、資料や物品を長期間保管する施設がこれに当たります。札幌市の資料(避難場所等について)によると、札幌市の基幹避難所は市立小中学校や区体育館などです。避難所として使われる体育館や教室にカビがあると、いざというときに多くの方が長時間過ごす環境に影響が出ます。平常時の点検が、防災の備えにもつながるということです。

施設の用途

主な利用者

優先度を上げる理由

重点的に点検したい場所

学校・幼稚園

児童・生徒・園児・教職員

利用者数が多く滞在時間が長い、基幹避難所を兼ねる

最上階の教室の天井、体育館の天井裏、新設エアコンのドレン経路

区体育館・スポーツ施設

地域住民、利用団体

基幹避難所を兼ねる、更衣室やシャワー室の湿気が多い

屋根裏、更衣室・シャワー室、器具庫

市営住宅

入居者(高齢者・子育て世帯を含む)

生活の場であり、住戸内の結露が起きやすい

北側の住戸、最上階住戸の天井、共用廊下側の壁

福祉施設・保育施設

高齢者、子ども、職員

環境の影響を受けやすい方が長時間過ごす

居室の窓まわり、浴室・脱衣室、天井裏

図書館・資料室・書庫

利用者、職員、保管資料

資料そのものがカビの被害を受ける

書架の最下段、外壁側の書架、空調の吹き出し口付近

庁舎・区民センター

職員、来庁者

利用者が多く、会議室など使用頻度に差がある

使用頻度の低い会議室、倉庫、地下室

市営住宅は、優先順位を考えるうえで特に規模の大きい施設群です。札幌市の資料(市営住宅の管理概要)によると、令和5年度末時点で管理戸数は26,486戸、95団地、724棟にのぼり、築30年以上の住戸が約7割(18,751戸)を占めるとされています。住戸内のカビは入居者の暮らし方の影響も受けますが、最上階の天井のしみや外壁側の壁の内部結露など、建物側の要因によるものは保全計画の中で把握しておく必要があります。空き住戸の期間が長い住戸は換気されず湿気がこもりやすいため、次の入居前の確認項目にカビ点検を入れておくと、入居後のトラブル予防にもつながります。

図書館や資料室、公文書の書庫については、国立国会図書館の資料が参考になります。国立国会図書館では、書庫の環境の目安として「人が作業できる温度」と「湿度65%以下」を挙げており、湿度が恒常的に65%を超えるとカビが発生する確率が高まるとしています。あわせて、温湿度を急に変えないこと、書架の最下段と床のあいだを空けること、データロガー(温湿度を自動で記録する機器)で監視することが示されています。書庫を持つ施設では、この目安を保全データベースの点検項目に取り入れると、建物の劣化と保管環境を同じ台帳で管理できます。

三つの軸は、それぞれ「高・中・低」の三段階で評価し、組み合わせて点検の頻度や深さを決めると運用しやすくなります。たとえば、利用者の属性が「高」で劣化状況も「高」の施設は、目視に加えて含水率測定や菌検査まで毎年実施する。どちらかが「中」であれば、目視と含水率測定を基本とし、異常があれば菌検査へ進む。いずれも「低」の施設は、日常点検の目視を中心にする、といった形です。評価の基準を文書にして担当課と指定管理者で共有しておけば、担当者が替わっても判断がぶれにくくなります。

第6章|予防保全としてのカビ対策を発注・仕様に落とし込む実務

カビ点検を保全計画に位置づけたら、次は誰が、いつ、どこまで行うのかを、発注や業務仕様の段階で明確にしておくことが大切です。公共施設では、市や区の担当課が施設を所有・管理し、指定管理者が日常の運営を担い、設備管理会社が点検や保守を受託する、という形で役割が分かれていることが一般的です。カビは部位をまたいで発生するため、役割分担があいまいなままだと、「誰かが見ているだろう」という状態のまま見過ごされてしまいます。

担い手

主な役割

カビ点検で担うとよい内容

市・区の担当課

保全計画の策定、予算化、改修工事の発注

点検項目と評価基準の設定、保全データベースの管理、優先順位の決定

指定管理者・施設職員

日常の運営と利用者対応

日常点検での目視確認、利用者からの指摘の記録と報告

設備管理会社

空調・換気設備などの点検・保守

ドレン配管や換気量の確認、機器まわりの結露や水漏れの報告

防水・外壁などの改修業者

部位ごとの改修工事

着工前後の下地の含水状態の確認、施工中の雨水対策

カビ調査・除去の専門業者

調査と施工

含水率測定・菌検査などの詳細調査、除カビ施工、カビが生えにくい環境づくりのご提案

発注の実務で取り入れやすいのは、既存の業務仕様書に数行を加える方法です。たとえば、設備管理業務の仕様書に「点検時に天井点検口から目視できる範囲の漏水痕・カビの有無を報告すること」と加える、指定管理業務の仕様書に「利用者からのにおい・しみ・カビに関する指摘を記録し、月次報告に含めること」と加える、といった形です。屋上防水や外壁の改修工事では、設計段階で「着工前に最上階の天井裏の含水状態を確認し、湿潤箇所がある場合は協議すること」を特記事項に入れておくと、湿った下地の封じ込めを防ぎやすくなります。

カビが見つかった場合の施工についても、公共施設ならではの配慮があります。利用者のいる時間帯を避ける必要があること、学校であれば夏休みや冬休みなどの長期休業期間に施工を集中させたいこと、天井材や木部、文化的な価値のある内装など、傷めたくない素材があることなどです。当社のMIST工法®は、素材の特性に合わせて専用の薬剤を調整し、こすったり削ったりせずに処理する方法で、素材を傷めにくい施工として公共施設でもご相談をいただいています。ただし、カビの状態や建材、原因となる漏水や結露の状況によって結果は異なるため、施工前の調査と原因への対処をあわせて行うことが前提になります。

もう一つ大切なのが、除カビ施工と原因の修繕をセットで計画することです。屋上防水の不具合が原因の天井裏のカビであれば、カビだけを処理しても、漏水が続く限り再発のおそれがあります。保全データベースでカビの発生箇所と部位の劣化を結びつけておけば、「この施設は屋上防水の改修と同じ年度に天井裏の除カビを行う」といった、無駄の少ない計画を立てることができます。費用は施設の規模や範囲、現地状況により異なるため、調査の段階で範囲と方法を明確にしておくことをおすすめします。

学校の冷房設備のように、整備や維持管理を事業者に一括して委ねる方式で進められる設備については、契約上の維持管理の範囲に「機器まわりやドレン配管の結露・水漏れの確認」が含まれているかを確認しておくと安心です。設備そのものは事業者が点検していても、配管が通る天井裏の内装材や断熱材は施設側の管理範囲、という線引きになっていることがあるためです。境目にある場所こそカビが見過ごされやすいので、点検の結果をどちらが記録し、誰に報告するのかを取り決めておくことが大切です。

さらに、ある施設でカビが見つかったときは、その情報を同じ年代・同じ仕様の施設へ水平展開する仕組みを持っておくと効果的です。たとえば、ある区の小学校で最上階の天井裏に漏水由来のカビが見つかった場合、同時期に建てられ、同じ防水仕様をもつ他の学校でも点検の優先度を上げる、といった使い方です。約2,300施設を一元的に管理しているからこそ、一つの施設で得た知見を全体の予防保全に生かすことができます。

点検や検査の具体的な方法については、以下の記事もあわせてご覧ください。

まとめ|長寿命化の保全計画にカビ点検を加え、事後保全から予防保全へ

札幌市の資料によると、市有建築物は約2,300施設・延べ約550万㎡にのぼり、1970〜80年代に建設されたものが多く、築30年以上の割合が高いとされています。札幌市は2008年度から保全計画に基づく計画的修繕を一元的に進めてきました。建物を長く使う長寿命化の考え方は、これからの公共施設管理の前提です。一方で、長く使うほど漏水・結露・断熱劣化が積み重なり、天井裏や壁の内側のカビが、利用者の指摘をきっかけに事後保全の段階で見つかりやすくなります。

本記事で整理したポイントは次のとおりです。まず、カビは屋上防水・外壁・空調といった部位と部位のあいだで起きる劣化であり、部位ごとの更新計画だけでは捉えにくいこと。次に、更新周期の終盤、改修工事の最中、更新工事の直後という三つの局面でカビが出やすく、既存の更新計画に点検のタイミングを重ねると効率的であること。そして、目視・含水率測定・菌検査の結果を、点検位置や関連する部位の状態とともに保全データベースに経年で残し、利用者の属性・建物の劣化状況・用途上の重要性の三つの軸で優先順位を付けることです。札幌では暖房期間が概ね10月〜4月と長く、豪雪期には窓を開けた換気も難しくなるため、春と秋の年二回の点検を基本にすると、季節ごとの傾向もつかみやすくなります。

取り組みの段階

主な内容

担い手の例

1.現状把握

優先度の高い施設から初回調査を行い、基準となるデータを取る

担当課、専門業者

2.台帳への反映

点検位置・含水率・菌検査結果・関連部位の状態を保全データベースに追加

担当課

3.日常点検への組み込み

仕様書に目視確認と報告の項目を加える

指定管理者、設備管理会社

4.計画的な対処

部位の改修と除カビ施工を同じ年度に計画する

担当課、改修業者、専門業者

5.水平展開

同じ年代・仕様の施設で点検の優先度を見直す

担当課

Q. 予算が限られていて、すべての施設で菌検査を行うのは難しいのですが、何から始めればよいですか?

A. まずは日常点検の目視確認と、利用者からの指摘の記録から始めることをおすすめします。そのうえで、学校や福祉施設など利用者の属性から優先度が高い施設や、屋上防水の更新周期の終盤にある施設に絞って、含水率測定や菌検査を行うと、限られた予算でも効果的な点検が可能です。

Q. カビを除去すれば、屋上防水の改修は先送りしても大丈夫でしょうか?

A. 漏水が原因のカビであれば、原因となる不具合が残る限り再発のおそれがあります。除カビ施工と屋上防水などの修繕はセットで計画し、保全データベースで両者の関係を記録しておくことが大切です。

カビ点検を保全計画に組み込むことは、新しい負担を増やすことではなく、すでにある点検や改修の流れに「湿気とカビの視点」を一本通すことだと当社は考えています。屋上防水の改修設計、空調設備の更新、外壁調査、日常点検といった既存の業務の中に、天井裏の確認や含水率の記録を少しずつ加えていくだけでも、数年後には施設ごとの傾向が見える台帳になります。事後保全で見つかるカビを一つでも減らし、利用者が安心して使える環境を長く保つことが、長寿命化の本来の目的にもかなうはずです。

2026年度は、札幌市立学校で普通教室等へのエアコン整備が進み、令和9年(2027年)夏の使用開始が目標とされている時期でもあります。新しい設備が一斉に使われ始めるこれからの数年は、保全計画にカビ点検を組み込む好機といえます。

カビバスターズ北海道では、含水率測定・付着菌検査・落下菌検査・浮遊菌検査(菌検査は有料オプション)などの各種調査から、MIST工法®による除去、カビが生えにくい環境づくりのご提案までをワンストップで行っています。公共施設の保全計画に合わせた調査のご相談や、長期休業期間に合わせた施工の計画づくりにも対応いたします。札幌・旭川・函館・帯広・釧路・北見をはじめ、北海道全域に対応しておりますので、市や区の担当課の方、指定管理者の方、設備管理会社の方は、どうぞお気軽にご相談ください。


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カビバスターズ北海道(MPソリューション株式会社)

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対応エリア:札幌市(中央区・北区・東区・白石区・豊平区・南区・西区・厚別区・手稲区・清田区)をはじめ、石狩・小樽・千歳・苫小牧・旭川・函館など北海道全域。地域ごとの対応は対応エリアをご覧ください。

料金の目安は料金ページ、札幌市内のご依頼は札幌市のカビ取りをご覧ください。

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